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Savioke(サヴィオーク)のロボットが、シリコンバレーのホテルで稼働中

シリコンバレーのクパティーノのホテルで、ロボットが働いている。「SaviOne(サヴィワン)」というSavioke(サヴィオーク)社の新製品で、客室にタオルやアメニティーを運んでいる。同ホテルでは、このロボットを「ボットラー」と呼んでいる。「バトラー」と「ロボット」を組み合わせた呼び名だ。

サヴィオークは、元ウィロー・ガレージCEOのスティーヴ・カズンズ氏が新しく創設したロボット会社。サービス・ロボットという、新しいカテゴリーのロボットの先駆けとなる。

 Savioke

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「不気味の谷」の森政弘先生インタビュー

GetRobo Masahiro Mori

「不気味の谷」全文に続き、著者の森政弘先生(東京工業大学名誉教授)のインタビュー記事を掲載します。

おもしろいことを嗅ぎ付ける能力に長け、『僕は「花咲かじいさん」の話に出てくる『ここ掘れワンワン』の犬なのです』と語る森先生は、インタビューの中で、「不気味の谷」を書いた経緯や、ロボットの定義、ヒト型ロボットに対する考え方などについて話してくださいました。

インタビュー記事の英語版はIEEE Automatonに掲載されています。(英文記事の見出し、「Uncanny Mind」の「Uncanny」は、「不気味」という意味ではなく、「洞察力に優れた」という意味です。)

このインタビューは2011年11月9日、森政弘先生の東京のご自宅で行われました。写真はご自宅前にて。

Q. 「不気味の谷」と題したエッセイは1970年に、「Energy(エナジー)」というエッソ・スタンダード石油の広報誌に最初に掲載されました。どのような経緯でこの文章をお書きになったのですか。

A. 「エナジー」誌が「ロボットの技術と思想」というタイトルで特集を組むとのことで、編集者から座談会と原稿を頼まれたのがきっかけです。座談会はSF作家の小松左京さん、哲学・論理学が専攻の吉田夏彦さん(当時・東京工業大学教授)、私の3人で行いました。

子供の頃から蝋人形を見るのが嫌いでした。それはどことなく不気味だったからです。電動義手というものも作られたのですが、それも不気味だなと感じていました。それをきっかけにロボット全般について考えていたので、あのような内容で書き下ろしました。

「不気味の谷」は僕の直感です。僕の発想の1つです。

Q.1970年というのは、人間に似たロボットというのはまだなかったのではないかと思います。そういう時代にこれを思いついたというのは。

Aそうですね。なかったです。そのころはロボットなんて大学で研究するようなものではないと言われていた時代です。そんなオモチャみたいなものを大学でやっているのは不真面目だ、とか。何でも新しいことはみなそうなのだけれど、初めは反対ばっかり多いものですよ。四面楚歌でした。1970年ころはまだロボットなんて研究テーマは恥ずかしくて(研究費取得のために)文部省に持って行けなかった。

学生まで怪訝に思っていましたね。そんなことやって将来、大丈夫かという気がしていたらしい。それがこのごろはロボットをやるために学校に入るのだからね。時代は変わった。

Q.「不気味の谷」はサイエンスかどうかという議論がありますが。

A. 例えば脳波を測定したりして、「不気味の谷」が実在するという科学的証拠が出てきている。ただ、気持ちが悪いから脳波がそうなるのではないかと僕は思う。つまり、なぜ気持ちが悪いかという問題の解決にはなっていない。不気味に思うのはなぜかということが今でも分からないわけです。

これは哲学、心理学、デザインの分野のたくさんの人々に関係のあることで、そのために大きな関心を呼んだらしい。書いた当時はこんなになるとは思ってもみなかったけれど。

「不気味の谷」はサイエンスというよりも、僕からロボットのデザインをする人々に対するアドバイスです。

Q.最初にこのエッセイをお書きになったときは、反響はありましたか。

A.全くないと言ってもいいです。

Q.いつごろから「不気味の谷」は世界で注目されるようになったのでしょうか。

A.2005年の国際ワークショップのころから話題になるようになった。僕も招待を受けたけれど、都合が悪かったので行けなかった。

Q.その後、「不気味の谷」はロボット分野の原則のようになりました。これについては、どうお感じになりますか。

A.別に何と言うことはないのだけれど、よく広まったものだな、という気がします。こんなにみんなが注目して、わいわいしてくれるようなものだったのかな、と自分では思っています。

Q.時代が追いつくのに40年かかるということですね。

A.そういうことです。外国人には通じないけれど、僕は「花咲かじいさん」の話に出てくる『ここ掘れワンワン』の犬なのですよ。おもしろいことを嗅ぎ付ける鼻はいいみたい。ここに何かあると。だけど、掘り出す腕がない。だから、『ここ掘れワンワン』と吠えるわけ。そして、他の人が掘ってくれると宝が出てくる。あるいは他の人が掘らないなら自分で少し掘ってみる。そうするとゴールドラッシュのように、みんなが、わっと来る。「不気味の谷」もただにおっただけなのです。

Q「.不気味の谷」を越えたロボットが出てきていると思いますか。

A.あります。つくばのHRP-4Cなんかそうだと思う。でも、まだちょっと気味悪いところがあるかな。

Q. 今でも、「不気味の谷」の手前を目指しなさいという考え方は変わらないですか。

A.はい。僕はいつも言っています。そこでやめておきなさいと。何で、危ないことしてまでこっちに近付けるのかと。おもしろくないですし、人間と全く同じロボットというのは。

Q.おもしろくないというのは?

A. ASIMOのほうが、気持ちがいいね。僕はこっちのほうの(不気味の谷を越えた)ロボットを作ろうという気がしないです。ロボットは人間と違ったほうがいい。

Q.でも、こっちを目指している研究が日本には多いですよね。

A.多いというか、ある。それはそれでいいけれど。やっぱり、とっても難しいでしょうね。仏像彫刻で言うと、最後のひと彫りでうっかり刃物を入れると全体がぶちこわしになる。そういう際どいところの世界になってくるでしょうね。

Qマサチューセッツ工科大学(MIT)元教授のロドニー・ブルックス氏などは、人間も機械であり、作れないわけがないという考え方です。森先生はどう思いますか。

A.分からないです。人間が機械である面はもちろんある。けれども、分からないのは心です。人間が生きて行くうえで永遠に解けない問題だと思います。ものから心が出てくることをだれも説明できない。コンピューターをうんと精密にして行けば心が出てくるかということが分からない。コンピューターが、今日はなんとなく気分が悪いなとか、あいつ嫌いだなとか好きだとか、そういう心を持つようになるのか。(故)加藤一郎くん(元・早稲田大学教授、ヒューマノイド研究の第一人者)は心が作れると言って研究をしていたけれど、僕はそれはできないと思う。心とは何かがそもそも分からないから。

Q.「不気味の谷」の考え方をこれからどういうふうに世界に活用してもらいたいですか。

A.「不気味の谷」にまつわる研究は、言わなくても進むでしょう。たいへんありがたいことだと思っています。僕自身は60歳で定年退官してから24年、今85歳です。なすすべもありませんが、これから他の人々の力によっていろいろ発展して行くでしょう。

Q.人間型のロボットが最も有効だと考えられる分野はどういったところですか。

A.人間にはできないこと、ロボットにやらせたいことはいっぱいありますが、ヒト型である必要はないと思います。むしろ人間型で家事支援なんて、ものすごく難しいと思いますよ。電気掃除機、皿洗い機の値段でできるようなものではないから。

Q.森先生にとって、ロボットの定義はなんですか。

A.定義はできないのです。富士山が定義しにくいのといっしょ。平地があってぽんと出ている山は、ここからが山でここからが平地だって線が引けるけれど、富士山のようになだらかに高くなって行く山は、ここまでが平地でここからが山だと言いにくい。ロボットは「富士山」型です。だからこれはロボットで、こいつはロボットでないというのは、はっきりと言えない。ASIMOなんかは頂上のほうにあるからロボットと言えるけれどね。電気皿洗い機はロボットかどうかといえば、自動的に皿を洗ってくれるから、ロボットと言えなくもない。境がぼんやりしている。

Q.最近、注目しているロボットはありますか。

A.ロボットのハードウエア自身には興味がなくなった。最近のものでも、僕にとっては目新しいものは何もない。性能は向上している。でも、世の中に思いもよらぬものが出てきたということはないですね。

例えば群れロボットなんかは僕が1975年に、沖縄海洋博に出展した。7匹のロボットが群れを成して動くもので、世界最初の群れロボットだと思います。自律分散系とかいって、ようやくここ10年くらいの間にいろいろと応用が出てきたけれど、昔から僕は考えていた。

ここにスケッチブックをお見せしましょう。いろいろな雑誌から切り抜いて集めたり、僕自身や学生が絵を描いたりしたものです。ここにみんな残っているけれど、1960年代のものです。指先だとか肩だとか、分類してね。ゼロックスが出てくる前の時代のものです。ここにあるようなものを、ようやくみんなが今作っている感じですね。

GetRobo Mori sketchbook 2

GetRobo Mori sketchbook 1

当時はロボットを作る金がないので、作れなかったけれど、今は弟子や孫弟子がいろいろ作っている。ASIMOやHRP-4Cなんか、僕の弟子だから。

Q.もし今、まだ大学にいらしていたら、こういうロボットを作ってみたいというのはありますか。やり残したことはありませんか。

A.僕はなんていうかな…. 自分でね、こういう領域を決めて、この中を掘り尽くすという態度の研究をしてこなかった。だから、やり残すということはないです。ただ、歩いていて、いい匂いがすると、「ここ掘れワンワン」と吠えて、だれかがそれを掘り出すと、よそに行ってワンワンと吠えて、そういうことをやってきた男なのです。まとまって、この世界については森に聞けば全部分かるという、そういうのはないです。普通、学者っていうのはそうだよね。あらゆる文献はそこに行けば集まっているとか。学位論文を書くまではそういうことやっていたけれど、なんか僕の性に合わなくてね。それよりも、何かいい匂いがしたところがおもしろいなとひょいと飛びついて、そういった感じですね。

Q.最近はロボット以外でそういう、いい匂いがしているところはありますか。

A. 今はね、技術と仏教の関係を一生懸命やっています。ロボットを作るには人間を知らないといけませんね。人間を知るうえで、仏教は最も適した方法なのです。特に人間の心を理解するためには、仏教ほど深く考究したものはないと思っています。それから、技術は良いことばかりではありません。場合によっては悪の面が強く出ることもあります。

我々は技術がネガティブに利用されないように、技術を「救済」しなければならない。それをいかに実現するか、私は熟慮しています。これが、私が仏教をやっている理由です。